掌編:セノーテこわい
セノーテがこわいヒカセン(ミコッテ女子)と釣り仲間男子(種族不明)のおはなし。
・黄金エリアネタバレ
・自キャラしかいない
この土地に数多くある、隕石の衝突跡から生じた地底湖はこの土地の言葉で『セノーテ』と呼ばれているのだが、それぞれは底の方で繋がっているらしい。
らしいと言うのは伝聞だからだ。以前イクブラーシャという集落でそこに住む少女に確かめてきてほしい、と頼まれ潜ってみたものの、どんなに潜っても底までたどり着くことができなかった。
そんなことを思い出しながら、俺は丈夫な縄を腰に巻き、更にその先をしっかりと手に巻き付けている。その縄のまた先には、同じように縄を腰に巻き結び、セノーテの縁にしゃがみこんで恐る恐る水面を覗くミコッテの少女がいる。その背に向かって俺は声をかけた。
「おい、そんな怖がるようなとこじゃないぞ」
どうしてこんなことになっているのか。
俺と彼女は同じフリーカンパニーに属する「釣り仲間」と言うやつなのだが、先日ヤクテル樹海の釣り場の話になった時──当然現地の水場といえばセノーテになるので──そこに潜ったか、底は本当に繋がっているかと言う話題にシフトし、そこである事が発覚したのである。
一度はそこに潜った彼女は底の見えないセノーテに恐怖を覚え、それ以降セノーテに入れずにいる、と。
「怖くないとか嘘でしょ」
縁にしゃがみこんで彼女は唸るように返答する。克服しようと大の男に腰縄まで巻いてもらっておきながら、もうすでに彼女は自身の恐怖に呑まれている。「底が見えない……どこまで沈むかわからないじゃない。溺れたら誰が引き上げてくれるの?誰にも見つかんないままずっと沈み続けたらどうすんの……」
「心配するな。人間は浮くしお前にはコウジン族のまじないがかかってる」
「それでも怖いのは怖いんだよお〜〜!!!!!!」
かの『英雄様』もかたなしである。こう喚いていると、年相応……いや年齢より少し幼く見えるが、なんにせよ彼女も普通の女の子なんだなと、俺は苦笑した。